気紛れ日記

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管理人:竜胆 彩葉(りんどう さいは)


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BASARA de クリスマス

街が赤と緑に彩られていくにつれて、隻眼の男が異様に張り切りだした。クリスマスに向けて準備を開始しているのだろう。そんな男を尻目に、元就は肺に溜まった息をゆっくりと吐き出した。人には向き不向きがある。元就はこういったイベント事が苦手なのだ。恐らく、何も用意出来ていなくても男は笑って済ますのだろう。それが解っているから、余計に気が滅入るのだ。
そして、悶々とした日々を送り、とうとうやって来たクリスマス当日。仕事を予定通り定時で片付け、帰宅途中の元気のない元就を見かねて、慶次がお節介を焼きにやって来た。
「やぁ、毛利さん。浮かない顔してどうしたの?」
「貴様には関係ない」
「そんな事言わずにさ、俺で良かったら力になるよ?」
「……失せよ」
心底嫌そうに顔を顰める元就の様子に、慶次は頭を掻いて苦笑した。ここまで取り付く島のない様子となると、どうやらかなり煮詰まっているようだ。元就に喜んでもらおうと上機嫌に張り切る元親を前に、何の策も思い付かないでいる彼はそれに中てられているのだろう。それならば、と慶次は作戦を変えた。
「毛利さんはどうしたらチカちゃんが驚くか知ってるんだろ?」
「……?」
喜ばせるのではなく、驚かせるのだ。元就が怪訝な顔で――と言っても、眉一つ動かさない無表情なのだが――振り向いた。表情は読み取れないが、彼が反応した事に慶次は手応えを感じた。これなら行けるだろうと、ニッコリと笑って口を開く。
「日頃やってない事をやってみるとか、どうせだったら、腰を抜かすくらいビックリさせてやればいいじゃん」
「……ふむ、そうか」
「あれ?早速何か思い付いた?」
「ふ、貴様もたまには役に立つではないか」
「あはは、有り難う。……けど、それって褒めてくれてんの?貶されてんの?」
頭を捻る慶次を尻目に、元就は進路を変えた。彼の頭の中では既にそれは楽しいクリスマスのイベントが出来上がっていたのだった。


元親が大きな包みを抱えて丘の上のアパートへやって来たのは、日もとっぷりと暮れてからだった。腕時計に目を落とし、元親は内心で舌打ちを打った。
「今日に限ってトラブルが起こるなんてよ。ついてねェなぁ」
マシントラブルの所為で仕事が滞り、システムが復旧するまで作業が出来なかったのだ。元親は苛立つ心を抑え、部下達を見事にまとめ上げて最短で仕事を片付けた。そして、最後の部下を見送ると、急いで職場を後にしたのだ。閉店間際の店に駆け込み、予約していた商品を受け取ると、元就の家へ急いだ。坂を駆け上がり、階段を1段飛ばしで上がる。角部屋の窓から明かりが漏れているのを視界に納めると、走る速度を上げた。郵便受けを覗き込み、ポケットから合鍵を取り出しながら、部屋へと向う。嫌そうに顔を顰めた家主がいるのだろうと、内心でうきうきしつつ元親は勢い良く扉を開けた。
「毛利、ただいま!」
そして、
「うぉおおおおおお!?」
楽しい気分はどこへやら、元親は飛び上がって驚いた。扉を開けると同時に部屋から出てきたのは、焦げ臭い匂いと黒い煙。そして、視界に飛び込んできた大惨事の部屋。何かが爆発したのだと、容易に知れる。腕に抱えていた包み、鞄、鍵、持っていた物全てが力の抜けた手から落ちていく。元親はサァッと血の気が引く音を聞いた。そして、すぐにハッと我に返ると、
「毛利!毛利、どこだ!?返事しやがれ!」
煙を手で払いながら、姿の見えない家主を捜す。すると、部屋の隅から咳き込む声が聞こえた。慌てて駆け寄り、元就の腕を掴んで玄関へと避難する。
「大丈夫か?怪我は?一体どうしたってんだ?」
矢継ぎ早に質問を浴びせると、元就が涙で潤んだ瞳でギラリと元親を睨んだ。咳き込む彼の背中を擦ってやりながら、元親は肩を竦めた。
「遅くなって悪かった。それより、どうしたってんだ……この有り様は?」
「オーブンが爆発した」
「怪我は?」
「ない」
言葉通り、どこにも怪我を負っている様子はない。ホッと安堵の息を吐き、咳き込む彼の視線の先を追うと、煙を上げているオーブンがあった。うわ~、と痛む頭を押さえていると、隣人が顔を出した。騒ぎに驚いて出てきたのだろう。幸いにも火は出ていない為、安全である事を伝えて迷惑を掛けた事を謝ると、足元の荷物を抱え上げ、元就を連れて部屋へ戻る。換気扇を回し、窓を開けて煙を外へ逃がしながら、元親は辺りを見回した。テーブルの上にはイチゴと生クリーム、砂糖、そして小麦粉が散乱しており、何を作ろうとしていたのか一目瞭然である。
「……」
チラリと元就を見ると、吹き飛んでしまったスポンジ生地を見下ろしている。どうやら火力を間違えたようだ。意気消沈してしまっているが、彼が無事で何よりである。ポンポンと慰めるように頭を叩き、元親は片付けに取り掛かった。動き出した男をぼんやりと見ていた元就だったが、暫くの後、ようやく動き出す事が出来た。買って帰ったのでは味気ないと、手作りにしようと思った事が間違いだったのだ。そう思い至り、取り出していた材料を片付けようとすると、
「待てよ、もう一回作り直せばいいじゃねェか」
元親が手を掴んで止めた。
「馬鹿な事を……」
煙を上げているオーブンを一瞥し、元就が小さく笑った。自らの失態を嗤うその姿に元親の胸は痛んだが、
「ほら、オーブンも動くみてェだしよ。折角用意した材料が勿体ねェだろ」
努めて明るく笑った。幸いな事にスイッチを押すとオーブンは動いてくれた。火力をキチンと設定すれば上手く焼けるだろう。失敗は誰にでもあるものなのだ。何よりも、分からないなりに彼が一生懸命ケーキ作りに取り組んでくれた事の方が嬉しいのである。
「俺も手伝うからよ。一緒に作ろうぜ、な?」
「……」
それでは策は失敗に終わる。元親を驚かせる為に考えていた事が、最初から台無しである。そうしてあれこれと考える彼をよそに、元親はひっくり返っているボウルを拾い上げた。
「しかし、手作りとは考えたなぁ」
「失敗したのでは話にならんわ」
唇を噛む彼を後ろから抱き締め、髪に優しく口づけると、元親はそっと耳元で囁いた。
「そんな事ねェよ。一緒に作る楽しみが出来たじゃねェか。それによ、今回で作り方を覚えたら次は失敗しねェだろ」
「次など……」
同じ事をしては面白くない。そうして頑なに拒絶する彼を振り向かせ、元親はそっと額に口づけた。
「勿論次も俺を驚かせてくれるんだろ?」
「……次、も?」
「?違うのか?」
ケーキ作りは失敗に終わったが、策自体は成功しているようだ。元親は余りの出来事に、本当に心臓が止まるかと思ったほど驚いたのだ。これも一つのサプライズであろう。ようやく元就の顔に笑みが浮かんだ。
「当然よ。貴様がどのような顔をするか、考えるだけで楽しいわ」
「ははは、そうか。けど、こういう事故はもう起こさないでくれよ。心臓に悪過ぎるぜ」
「ふん、爆発は計算外だったのだ。仕方なかろう」
「……ま、無事だったからいいか」
何故か胸を張る元就に苦笑を零しつつ、換気扇を止めて窓を閉めると、冷たい外気に身体を震わせる彼を抱き上げた。
「長曾我部?」
「あんた先に風呂入れよ。凄ェ甘い匂いがする」
「匂いなど……今からケーキを作るのではなかったのか?」
「作る前に、あんたを食いそうになるって言ってんだ。晩飯もついでに作っとくから、身体流してこいよ」
主導権を握られ、元就の表情が険しくなっていく。
「貴様は……」
「今すぐヤッていいって?俺は別に構わねェぜ?」
「……腹が減った。はよう、作れ」
「あぁ、ゆっくり温まってきな」
ニッコリと笑う男の額、そして頬を撫で、元就はそっと顔を近付けた。一瞬、驚いたように目を瞠った男に、満足そうに目を細めて笑うと、ゆっくりと唇を重ねた。触れるだけの口づけを交わし、逞しい腕から下りると、バスルームに消えた。
「……ヤベェ、飲まれるな、飲まれるな。これはあいつの罠だ」
ブツブツと己に言い聞かせ、元親は懸命に欲望を抑え込んだ。その扉越しで、元就は口の端を上げて笑った。


策はまだまだ用意している。それが男の欲望に火が点く危険性を持っている事は承知の上である。日頃欲望に忠実な男は、こういうイベント事には特別な思い入れで臨む事を知っているからだ。恐らく、クリスマスプレゼントを開ける所までの段取りは立ててきているはずだ。それまでは元就の身の安全は約束されているのである。元就の仕草や行動で、元親が見せるだろう表情や仕草。それらを考えながら、元就はゆっくりと風呂で身体を温めたのだった。

大遅刻ですが、現代クリスマスネタでした!
思ったより長くなってしまいました。そして、まとまらなかったらどうしようかと、本当に頭を抱えました。難しいんだよぅ。
何はともあれ、書き上げられて良かったです。


さて、仕事で宿題を出されてしまったので、休みの段取りが大幅に狂ってしまいます。
ちくしょ―――――ッ、負けてたまるかッ!!
と言う事で、またしても引き籠ります(笑)
やりたい事があるのはいい事ですvv

おやすみなさいvv

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