気紛れ日記

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管理人:竜胆 彩葉(りんどう さいは)


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二人旅 de ヴァレンタイン

山を越えて新しい町へやって来ると、いつもと様子が変わっていた。店先にはワゴンが置かれ、中には沢山のチョコレートが入っている。
「あぁ、そんな季節か。おかげで遭難するところだったじゃないか」
「まったくだ。冬山になんざ登るもんじゃねェな」
「麓の村の人達が止めるもの聞かずに、強行突破したのはお前だ。謝れ」
「無事だったんだからいいじゃね……ぉあっ!」
思い切り背中を蹴り飛ばされ、勇者が雪に突っ込んだ。
「殺す気か、駄目勇者!一歩間違ったら、凍死するところだったんだぞ!!」
「俺の勘を信じろ。天変地異が起きても生き残るぜ」
雪を被った情けない姿で自信満々に言い切る勇者に、
「………はぁ」
カイは脱力するしかなかった。何を言っても無駄のようだ。痛む頭を押さえていると、ふと視線を感じた。辺りを見回すと、遠巻きに人々がこちらを見ている。
「…?」
怪訝に思いつつ振り返ると、雪に突っ込んだままの勇者がいる。こんな寒空にいい大人が雪に突っ込んで、一体何をしているのか。興味津々な視線を向けられている当の男は、一向に周りを気にしていない。カイがカッと頬を染めた。
「早く立て!恥ずかしい!!」
「あ?坊やが蹴ったんだろ」
「お前が馬鹿だからだ!早く立て!!」
「酷ェ言われようだな、おい」
苦笑しながら勇者が立ち上がると、通りの向こうから女性の黄色い声が上がった。
「え、何?」
「んだぁ?」
驚いていると、多くの女性がソルの周りを取り囲んだ。見ると、手には綺麗に包装された箱を持っており、何の為に集まって来たのかすぐに知れた。
「勇者様ですよね?このチョコを受け取って下さい」
「抜け駆けはずるいわ!勇者様、私の愛の篭ったチョコを…」
揉みくちゃにされている勇者から距離を置き、カイが苦笑を零した。旅が進むに連れて、ソルは町々で取り囲まれるようになっていた。ぶっきら棒で返す言葉は冷たいが、しっかりと話に耳を傾ける男なのだ。それが面倒だから、極力町の人を無視して進んで来たのである。そして何より、黙って立っていれば男前なのだ。いくらでも女が寄ってくるのである。カイは小さく笑うと、手を上げてソルに合図を送った。
「ソル、宿を取っておくから、後で来い」
「待ちやがれ、テメェ!置いて行くな!!」
こんな日に町に辿り着いた勇者の運がいいのか、悪いのか。珍しく困り果てた勇者を薄情にも置いて、カイは宿に向かったのだった。

一階が食堂で上階からが宿泊施設となっている宿だった。山越えして来た旅人の為に、一階には大きな暖炉があり、すぐに暖めるようになっていた。カイも部屋に荷物を置いて、暖かい食堂へ降りてきた。その間に従業員達が部屋を暖めてくれるのである。
「あんた、勇者のお供の人だろ?さ、こっち来て温まりな」
「有り難うございます」
カイは柔らかい笑みを浮かべ、勧められた席に着いた。人々のカイへの認識はあくまでも『勇者の供』だった。責任や重圧は全てソルが一人で背負っているのだ。この言葉を聴く度に、カイは陰で勇者を支える努力をしてきたのである。
「ほらよ、濁酒だ。温まるぞ」
「…どぶろく?」
「知らないのか?この辺りじゃ子供も好んで飲む酒だ。美味いぞ」
「そうなのですか。頂きます」
感嘆の息を吐きつつ、白く濁った酒を一口飲んだ。甘みがあり、やさしい口当たりで飲み易い。溶解した米を噛むと、甘味が口内に広がった。
「甘くて美味しいです」
「だろう?どんどん飲んでくれ」
「有り難うございます」
摘みまで並べられ、カイは小さく笑った。日の高い内から酒を飲むのは気が引けたが、一人で部屋にいるよりかは気分が紛れる。ちびりちびりと酒を舐め、カイはソルがやって来るのを待っていた。甘くて飲み易いが、酒は酒。油断してはならないのが、アルコール度だ。
「おいおい、大丈夫か?」
「ふふふふふふ、私よりもあいつの心配をしてあげて下さい。私は大丈夫ですから……」
「いやいや、どう見ても今のあんたは大丈夫じゃねぇぞ?」
「ふふふふふ、大丈夫です……」
「駄目か……おい誰か、入り口で捉まってる勇者を連れて来てくれ」
突っ伏してしまっている賢者に水を出しながら、店主が従業員の一人を助っ人として送り出した。そうしていると、ソルにチョコレートを渡し終えた女性が次々とカイの元へとやって来た。彼の周りに箱の山が出来上がる。とりあえず籠の中にチョコの箱を詰め込み、部屋へと運ぶ。その作業を繰り返しているが、
「……勇者はどうした?」
一向にやって来ない。店主が途方に暮れた頃、ようやく大荷物を抱えた勇者と従業員がやって来た。
「何だ、そりゃ?」
「あんたの格好も似たようなもんだぞ」
「そうかよ」
「それより、手伝ってくれ」
やれやれと溜め息を吐き、ソルは荷物を店主に預けると、カイを抱き上げて階段を上がっていった。真っ赤な顔をして気持ち良さそうに眠っている彼には笑みを誘われたが、部屋の中の箱の山にソルはげんなりとした。
「いやぁ、凄い数だな。色男は辛いなぁ、勇者の兄ちゃん」
「冗談じゃねェぜ……どうせノリで渡しに来ただけだ。下で配ってくれ」
「無理矢理手渡されてきたんだろうが、あんたも大概酷いな。食ってやんなよ」
「うるせェ、全部初対面の女からだぜ」
町に辿り着くと同時だったのだ。名前も知らない相手からの貰い物など、気持ち悪いだけだ。
「……やれやれ、しゃあねぇな。燃やしちまうか……」
ふーと溜め息と共に吐き出した言葉に、店主が飛び上がって驚いた。
「捨てるくらいなら下で配らせてもらうよ、勿体ない」
「あ?あぁ、助かる」
店主が慌てて箱の山を持って降りていった。

そうしたやり取りの間も、カイは幸せそうに眠っていた。ふとソルは懐の煙草が切れている事に気が付いた。外に買いに出れば、また囲まれてしまう。
「あ~、ツイてねェ」
毒吐きながら、それでもストックを求めて自分の荷物の中を漁ったが、無い。しっかり者のカイが用意していないかと、彼の荷物の中も漁る。すると、やはりストックを用意している。そして、もう一つ用意されている物に気付いた。
「板チョコ…?何でこんなモン…」
彼はヴァレンタインの事に気付いていなかった。偶然だろうかと思ったが、ソルはその考えをすぐに否定した。
「俺が冬山に登ると読んでいたのか……」
良く見ると他にも入っていたのだ。板チョコやキャラメルなど、決して無駄遣いをしない彼がカロリーの高い菓子を買い込み、用意していたのである。包装も何もされていない、ただの板チョコ。綺麗に包装された高級チョコレートよりも、ソルにとって嬉しいものだった。視線を前に戻すと、幸せそうに眠っている彼がいる。自然とソルの口元に笑みが浮かんだ。
「そんな無防備にしてると抱いちまうぞ、カイ」
「ん~?もう飲めません」
「ククク……あぁ、そうだな」
寝惚けている彼の髪を撫で、そしてそっと唇に口づけた。

番外編 終
ヴァレンタインでした――――ッ!!!
最近『de』シリーズと呼べそうなくらい、色々書いています…(笑)
更新でなく、またしても一発書きで申し訳ないのですが、こんなので如何でしょう??

さて、拍手を押して下さった方々に額を擦り付けてお礼を言いたいです。
海よりも大きなお心をお持ちなのでしょう!
尻切れトンボのアレでも、笑って頑張れと言って頂ける方がいて下さるのが嬉しいです。
えぇ、こういう時こそポジティブシンキングです!!(笑)
いやいや、有り難うございましたーvv

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