気紛れ日記

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管理人:竜胆 彩葉(りんどう さいは)


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片倉家&長曾我部家 de 秋の大運動会

食欲の秋。読書の秋。運動の秋。何をするにもいい季節である。
そして、子を持つ親の気合いの入りようも尋常ではない時期でもあった。
「やるからには勝つ!」
「どの組を狙ってやがる?」
「層の厚い、織田さんの所!」
「……、だろうな」
予想通りの答えに小十郎は溜め息を吐き出した。

今日はBASARA学園運動会。そして、やる気満々で参加するのは保護者対抗リレーだ。

保護者と子供が走り、順位を競うリレーである。子供達がプリントを持って帰って来ると、佐助が異様に張り切り出したのである。
「この日の為にバトンの練習をしたんだから!」
「あぁ、これで終わりだ」
付き合わされる小十郎は疲労困憊だった。仕事から帰り、彼を腕に抱いてゆっくり寝るつもりが、バトンに見立てた新聞紙を片手に、町内を全力疾走する事、十日間。やっとそれから解放されるのだと思うと目頭が熱くなる。
「はっはっは、気合入ってんな、佐助」
「間違ってもスタートで転ぶでないぞ」
同じチームの瀬戸内組が鉢巻をしてやって来た。
「就ちゃんも転ばないように気を付けてよ。親ちゃんはアンカー200メートル頑張ってね!」
「頑張るも何も、上杉がいるチームの圧勝で終わ……痛ぇ!」
美人のくのいちが控えるチームを挙げる元親の足を元就が蹴り飛ばした。
「痛ぇな、何だよ!」
「弱点を突けば、我らにも勝機はある」
「あ?弱点?軍神のブロマイドでも撒くつもりか?」
「抜かりはないわ」
懐から写真を見せる元就に、元親が引き攣った笑い声を上げた。どの家も張り切るのは嫁の方である。


一度始まってしまえばテンションは否応にも上がる。子供も一緒に走るのだが、手加減、容赦、一切無用。大人げないと言うなかれ。必死に、それこそ真剣に走るのは、寧ろ親の方なのだ。子供達の若さに負けるチーム。親の根性を見せるチーム。そんな一生懸命なプレーを見ているだけで、とても楽しいものである。佐助がそうしてランナーを目で追っていると、追加で参加してくるチームを見付けた。
「あれ?もしかして、大将も参加するんじゃ……?」
「何だと?信玄公が?」
「はっはっは、ホントだ。飛び入り参加する気かねぇ?」
「笑い事ではないわ!あの顔ぶれを見よ!」
元就が引き攣りながら指差した先には、武田信玄、立花宗茂、島津義弘、風魔小太郎。掠っただけで吹き飛びそうなパワーファイターの中に忍が控えていた。受付でエントリーしている四人に、
「どうしよう!小太ちゃんがいたら負けちゃう!」
「おのれ、卑怯な!北条の代わりのつもりか!」
佐助と元就が悲鳴を上げ、小十郎と元親が苦笑した。
「腰を悪くされている氏政殿が走るのは難しいだろうな」
「どうせまた爺さんに調子良く命令されたんだろ」
表情を一切変えない青年だが、氏政の傍では楽しそうに映るのだ。お調子者だが、心優しい祖父の為になら、忍の足を使う事すら厭わないだろう。
「計算してないぞ!ここからではもう北条に毒を盛れぬ!」
「就ちゃん、怖い事言わないで!でも、気絶させるだけなら……!」
懐から薬包紙を取り出す元就。そして、グラウンド内にはあるはずのない手頃な石を探す佐助。
「おいおい」
「任せろ!俺が釣り上げてやるぜ!」
呆れ返る小十郎の傍で、元親がどこからか釣竿を取り出した。止めに入るとばかり思っていた長曾我部家の大黒柱まで悪さに加担しようとし、
「やめやがれ!テメェら、いい加減にしねェと、俺は棄権するぞ!」
とうとう小十郎の堪忍袋の緒が切れた。それに飛び上がって驚いたのは佐助だ。踵を返す男の腕を掴んで止める。
「ごめんなさい!ちゃんと走るから行かないで!小十郎さんがいないと詰まらないんだから!」
「……ッ!」
「せっかくあんなに練習しただろ?もう何もしないから、一緒に走ろうよ」
「…」
何よりも小十郎が喜ぶ言葉を佐助が叫んだ。鬼の角が圧し折れる瞬間を見た瀬戸内組は内心で感心しつつ、知らん顔をしていた。
やる気満々の佐助の隣に控えている小十郎から覇気が消え失せてしまった。それを尻目に、元親が肩を揺らして笑った。
「風魔がいようが、いまいが……こりゃあ、負けが決定したな」
「何故だ?」
「竜の右目は夜に余力を残すだろうよ」
「佐助が全力を出せば結果は同じぞ」
「俺だったら、疲れ果てて眠るあんたを腕に抱いて寝るだけでも嬉しいぜ?」
「……ッ、焼け焦げよ!」
「はっはっは」
そっと元親が手を伸ばして小さな手を握ると、顔を耳まで赤くしながら、それでも元就は大きな手を振り払おうとはしなかった。

リレーの結果はと言うと、片倉家の大黒柱と長曾我部家の嫁が浮足立ち、二度もバトンを落とすというミスを犯し、惨敗。
怪我人が出なかっただけマシなのだろう。

何をするにも、秋はいい季節である。

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籠の鳥

籠の鳥


不自由のない生活だった。
大きな屋敷で一日三食、昼寝付き。
外には出られなかったけれど、忙しくしているご主人様が屋敷にいる間は毎晩遊んでくれた。

時々知らない人達に珍しい毛並みの俺様の事を自慢して見せていたけれど、誰にも触れさせようとはしなかった。

いつもと同じように知らない人達が俺様を見に来た。けれど、その日は背筋が凍る思いがしたんだ。
「卿好みの珍しい毛並みだろう」
『?』
ご主人様が怖そうな人と話をしていた。
「猿飛を返してもらおうか」
「ふふ、決めるのは私ではない」
「何だと?」
「ここから出て行こうと思えば、いつでも出ていけたはずだ。だが、彼はそれをしなかった。それがどういう意味か解るかね?」
「……」
怖そうな人の顔には傷があった。それだけでも怖いのに、物凄い眼で睨み付けられた。そのまま傍に寄って来て腰を下ろして、目を合わせてきた。安全な籠の中にいても震え上がるくらい怖かった。
「俺が分からねェのか?」
『だぁれ?』
「!」
俺様の声を聴いて、男が本当に驚いた顔をした。その瞬間、
「松永、テメェ!」
ご主人様に掴み掛かろうとした。けれど、すぐに護衛が風の様に現れて護ってくれた。良かった。でも、俺様は息が止まるくらいに驚いた。
「怖がらせないでやってくれたまえ。彼が怯えてしまっている」
「あいつに何をしやがった!」
「彼が望む通りの調教を」
「ふざけるな!」
「ふざけてなどいない。高い女のような声も、彼が望んだ。そうだな、佐助?」
『はい。いけない事だったの?』
「いいや。誰も卿を縛れない。卿は誰よりも自由でなければな」
ご主人様が笑ってくれた。それだけで嬉しい。それなのに、
「自由だと?こんな檻に閉じ込めて、それでも自由か!誰よりもテメェがこいつを縛り付け、支配してやがるんだ!」
この人はとても怖くて、身体が言う事を利かなくなる。
『怒らないで。怒鳴らないで。ご主人様は優しくしてくれる。お願いだから、もうやめて』
「違う、猿飛。お前はこんな所にいちゃいけねェんだ。俺と一緒に来い。外に連れ出してやる」
『どうして?ここでは何も不自由していないし、ご主人様も傍にいてくれる。どうしてそんな風に言うの?』
「……」
あ。何だろう。この人の顔を見たら、胸が苦しくなった。
『どうしてそんな顔をするの?』
「…」
訊いても、答えてくれなかった。後悔?哀しみ?謝罪?辛いの?どうして?
「ふふ、卿が私以外の者に興味を示したのは初めてだな」
『だって……』
こんな泣きそうな顔をされたら。放っておけなくてそっと大きな手に触れると、何も言わずに優しく握ってくれた。
「一度外を見てくるのもいいだろう。卿が戻りたいと思えば、いつでも戻ってくればいい。この檻と枷はいつでもここにある」
『で、でも……ご主人様』
顔を上げると、ご主人様が檻の中に入ってきて枷を外してくれた。
「彼は片倉小十郎。卿の新しい主人だ」
『かた……?新しいご主人様?』
「そうだ。卿の新しい主だ。外の世界を楽しんで来たまえ」
冒険。そんな言葉が頭の中に浮かんだ。もう俺様の心は外に向いていて、ご主人様達が話している事なんてどうでも良かった。



嬉しそうに小太郎と戯れている佐助を尻目に、小十郎は久秀を睨み付けた。
「こんなに簡単に手放すとはな。何を企んでいやがる」
「手放す?それは違う。外へ行くのも、ここへ戻って来るのも、彼の自由だ。それに、私が彼をどうしようと、卿に口出しする権利はない。そうだろう?」
「……猿飛はもらって行く」
「好きにしたまえ」
アッサリと久秀が引き下がり、屋敷の奥へ消えて行った。小十郎が渋面のまま立ち尽くしていると、待ち切れないのか、佐助がソワソワと傍を歩き回った。
「すまねェ。……行くか」
『はい、ご主人様』
「……小十郎だ」
『はい、小十郎様』
「……」
『?』
そうして松永の屋敷から佐助を連れ出す事に成功した小十郎だが、彼がここでどんな生活をしていたのか、これから嫌というほど思い知る事になるのだった。

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香り香る

可愛い子供達を寝かし付かせ、料理の仕込みをしつつ時計を確認すると、針は既に日付を跨いだ深夜だった。一人分残っている晩ご飯は、ラップを掛けた状態で冷え切ってしまっていた。
「…」
佐助は時折ぼーっと時計を眺めつつ、野菜を刻んで冷凍庫に詰め込んでいった。そうしていると、玄関が開く音がした。極力音を立てないように気を付けながら小十郎がダイニングへやって来る。
「お帰りなさい、小十郎さん」
疲れた表情をしていた男が佐助を見ると、フッと笑みを浮かべた。
「ただいま」
「ご飯すぐに温めるよ。座って」
「あぁ、有り難う」
男が上着とネクタイを外している間に佐助は料理をレンジに突っ込み、それらを椅子の背に引っ掛けて男が腰を下ろすと目の前にビールとグラスを用意し、男が一息吐いている間に上着とネクタイをハンガーに掛けてクローゼットに直す。まるで佐助が水を得た魚のように生き生きと動き出した。そんな姿を目で追いつつ小十郎がビールで喉を潤していると、
「仕事はまだ忙しいの?大丈夫?」
佐助がおずおずと訊いてきた。ここ一ヶ月ほど、小十郎の帰りが遅いのだ。日付が替わってから帰る事が多く、仕事の途中で軽く胃に入れているのか、晩ご飯も余り食べない。軽く食事をとり、汗を流して寝る。そんな毎日を過ごしていて、酷く疲れているはずなのだ。
「すまねェ、後もう少しすれば落ち着く。大丈夫だ」
それも何度目の言葉だろうかと、佐助は困ったように笑った。

小十郎が風呂に入っている間、佐助は食器を片づけて一足先に寝室へ向かう。時間を見て、余りにも遅いようであれば風呂を覗きに行くようにしていた。疲れ果てて、そのまま風呂で眠り込んでしまうのだ。
「睡眠時間、約四時間。それがもうひと月……そりゃしんどいよね」
土曜は全て出勤し、日曜も昼までか夕方までは帰って来ないのだ。
「…」
家の外では常に小十郎は気を張っている。仕事も一切手を抜かないのだ。その内過労で倒れるのではと気が気ではなかった。佐助は引出しを開けてあるものを取り出した。

ウトウトとしそうになり、小十郎は頭を振って風呂から上がった。睡眠時間が短いのは仕方がない事だが、気が張っているのか眠りも酷く浅いのだ。朝方に仕事をしている夢を見て飛び起き、隣で眠っていた佐助を起こしてしまった事もあった。その時は佐助が起きる少し前だった為、彼は朝食の準備をしに起き、時間ギリギリまで小十郎をそのまま二度寝させてくれた。
「…」
自制出来ていないのは疲れが溜まっているからだ。小十郎は肺の中の息を吐き出し、早々に寝室へ向かった。ドアを開け、
「?」
鼻腔をくすぐるいい香りに足を止める。
「香りが逃げちゃう。ドア閉めて早く入って」
佐助が手招きした。
「どうした?」
尋ねると、
「小十郎さん、かなり疲れてるでしょ?アロマでリラックスして、ゆっくり眠れたらいいなと思って」
佐助が何本かの棒を差した瓶をベッドの上に置いた。

『片倉の旦那は無理し過ぎだよ。ゆっくり眠れるように香を用意したよ』

小十郎は呼吸を忘れた。ほぼ同じ状況、同じ立ち位置だった。

「えっとねぇ、ラベンダーは眠りが浅い時に使うといいんだって」
違うのは、彼がアロマの解説書を見ながら喋っている所くらいだ。
「どうしたの?」
「いや」
「嫌いな臭いだった?他にも、ベルガモットとかカモミール?とかがいいみたいなんだけど、これが一番人気だってお店の人に教えてもらったんだよ」
「そうか」
どうしても口元が緩む。小十郎はベッドに潜り込み、佐助を腕の中に抱き締めた。
「なぁに?そんなに嬉しかった?」
「あぁ。ゆっくり眠れそうだ」
「へへ……へへへへへへ」
照れ臭そうに笑う佐助を抱き締め、小十郎は心が解れていくのが分かった。その夜は睡眠時間は少ないものの、しっかりと熟睡が出来た。


「小十郎さん、起きて。遅刻するよ」
パチッと目を覚ました小十郎に、佐助はホッと安堵の息を吐いた。いつもは疲れが抜けきれずに、すぐには覚醒しなかったのだ。
「ぐっすり眠れた?」
「あぁ、だいぶスッキリした」
「そ?良かった」
そうして明るく笑う佐助に口づけると、サッと頬を朱に染め、そしてはにかんだ。

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蜜蜂の日

蜜蜂の日

いい香りに誘われて佐助は居間のソファーで仕事をしている小十郎の後ろに回り、広い背中に顔を埋めた。
「何だ?」
仕事中は邪魔をしない彼が珍しく甘えてきた。
「いい匂い」
「そうか」
フッと目を細めて笑い、小十郎は抱き付いて前に回している彼の手を撫でてやった。佐助は匂いに敏感だった。煙草の臭いを嫌がる彼の為に、ヘビースモーカーだった小十郎は煙草をスパッとやめた。すると、元々好んで付けていた香水を佐助が気に入り、こうして寄って来るようになったのである。
「蜜蜂の気分」
「俺が蜜なのか?」
「ううん。あんたは……えぇっと、肉食花?」
「何だ、それは?」
「もう、お馬鹿さん。誘ってんの」
「仕事中だ」
「ちぇ~」
本気の言葉ではないのだ。佐助がクスクスと笑う。
「盛ってんなら後でたっぷり可愛がってやるよ」
「いいえ、今相手してくれないなら結構です。残念でした」
冗談のつもりで佐助は笑い飛ばしたのだが、それが男のスイッチを押してしまった。
「そうか」
男が腰を上げた。その瞬間、佐助の視界が反転した。
「!」
小十郎にソファーへ押し付けられている事に気付き、佐助はサッと顔色を変えた。
「な……何してんの?」
「相手をして欲しいんだろう?遠慮するな」
「わ……わ!待って!」
制止の声が聞き入れられる訳もなく、佐助は咄嗟に叫んだ。
「先にシャワー浴びなきゃ嫌だ!」
「そうか。シャワーを浴びればいいんだな?」
「!」
やられた。そう思って羞恥と怒りで顔を真っ赤にすると、小十郎がフッと笑って離れた。
「そんな顔するなら最初から誘うな」
「ば……馬鹿!」
「あぁ、悪かった」
何事もなかったかのように小十郎が再びパソコンに向かう。そんな余裕綽々の男の態度に佐助は柳眉を逆立てた。
「何だよ!抱けよ、馬鹿!」
「そんな誘い方があるか」
「あんたはいつもそんな余裕面してホント腹立つ!俺様ばっかりあんたの事が好きで……!不公平だよ!」
背中に顔を埋めて喚く佐助の言葉に小十郎が固まった。
「俺様がバタバタしてんのを見て楽しんでんだろ、根性悪!」
「誰が根性悪だ」
「あんただよ、お馬鹿さん!」
憤慨する彼の様子にやれやれと嘆息すると、小十郎は再び佐助をソファーに押し倒した。すると、うるさかった口が息を呑んで閉じられる。
「俺をからかって遊んでいるのはお前だろう。お互い様だ」
「……違う」
「本気で俺を誘ってんのか?」
「…」
佐助は口を閉ざした。小十郎が口の端を上げて笑っていたのである。そして、とんでもない事を口走ってしまったのだと気付く。
「俺のどこをどう見て余裕だと思ったのかは知らねェが、淋しい想いをさせていたのは事実のようだな」
「何言ってんの?だ、誰が淋しいなんて……」
そうして強がる彼の橙色の髪をそっと撫でるとピタッと大人しくなる。小十郎が目を細めて穏やかに笑うと、佐助が悔しそうにふいっとそっぽを向いた。あぁっと気付く。口に出して言えば噛み付くであろう『可愛い』という言葉。それを飲み込んで微笑む表情が彼には余裕の笑みに見えるのだろう。
「とんだ勘違いだ」
「…?」
男の言葉の真意を測りかね、佐助が視線だけの問いを投げる。
「俺の方こそ不安だ。気の利いたセリフを言える訳でもねェ。いつお前が愛想を尽かして出て行くか気が気じゃねェんだぜ」
「……何、それ?そんな事今まで一言も言わなかったじゃん」
「お前はいつも軽口を叩いて、俺をからかうばかりだろう」
「……だって」
いつも黙って笑うだけで、明確な言葉を言ってもらった事が無いのだ。不安にもなる。そうして訴えると、小十郎がそっと瞼に優しく口づけてくれた。見上げると、穏やかに笑っている。
「それ、その顔。その顔がやだ」
「俺はその顔が好きだぜ」
頬を朱に染めて待っている、物欲しそうなその顔が可愛い。
「……ば……ば、馬鹿!」
「ククク……クックック」
「嫌い、大嫌い!あんたなんか大嫌いだ!」
「あぁ……クク、そうか」
こうして可愛くない言葉が出てくると解っていたから言わなかっただけだ。小十郎が肩を震わせて笑い、佐助は真っ赤になった顔をソファーに押し付けて悶えた。
「俺は言葉足らずでいけねェな」
「……う~」
「お前は肝心な事を言わねェのがいけねェな」
「……ん」
大人しくなっていく彼の髪を撫でてやりながら、小十郎はたまにはこうした言葉遊びもしてみるものだと感じた。男の前でしか見せないこんな可愛い表情を明かりの下で見る事が出来るのであれば。そっと髪に口づけて再度パソコンへ向かうと、佐助がそっと背中に擦り寄って来た。
「いい匂い」
「そうか」
「ん」
そうして小十郎の仕事がひと段落するまで、佐助は黙って背中に寄り添っていた。

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佐助のホワイトデー事情

佐助のホワイトデー事情


バレンタインデーが過ぎると同時に店にはブルーの看板が立ち並び、ホワイトデーに向けてクッキーや可愛い小物が並ぶ。クッキーの箱が置かれた棚の前で幸村が立ち止まった。
「気が早いね。もう竜の旦那へのお返しを買うの?」
佐助も立ち止まって尋ねた。クッキーの箱を手に幸村が振り返る。
「いや、バレンタインに渡したからな。政宗殿はホワイトデーもケーキを焼いてくれるのだが、お返しはいらぬと言っていた」
「はぁ?そんな事してたら愛想尽かされるよ」
「だが、作ってくれると言うから……」
「お馬鹿さん!本音と建て前は違うの!ちゃんと竜の旦那にお返ししなきゃダメ!」
佐助が強く言うと、そうかと納得しつつ幸村がもう一つ箱を手に取った。おや、と佐助は目を丸くした。
「誰かにお返しするの?」
幸村も女性から好意を寄せられているのだろうかと、佐助が嬉しそうに顔を綻ばせた。そんな彼を尻目に若虎が複雑な表情で俯いた。
「……うむ。佐助は要らぬのか?」
「俺様はまた手作りするからいいの」
「それで先月片倉殿と揉めていたではないか」
バレンタインに安いチョコで作ったものを小十郎に手渡しながら、佐助は限定チョコを自分にご褒美していたのだ。それを偶然男に知られ、詰め寄られていたのである。幸村の言葉に佐助は可笑しそうに笑った。
「あはは、大袈裟な。ちゃんと二人で限定チョコを分けて食べたよ」
「来月は何を自分にご褒美するつもりだ?」
「リーガの限定クッキーの詰め合わせかなぁ。それか、ケーキでもいいなぁ…って、何でまたあんた達がいるの?」
低い声の主を振り返ると、ひきつっている政宗と苦く笑う小十郎がいた。幸村にケーキの約束をしている政宗は先の会話に多少なりともショックを受けていたようだ。
「俺はアンタのパティシエじゃねェぞ」
「うむ。だから、貴殿のお菓子は後半年以上待たねば食べられぬ」
「……半年?」
「ホワイトデーを過ぎれば、次はハロウィンまで貴殿のお菓子は食べられぬだろう?残念でござる」
淋しそうに笑う幸村に小十郎は渋面になり、佐助はなんて甘え上手だと内心で感心していた。普段こうして素直に甘えられる事のない政宗は照れくさそうに頭を掻いた。
「そ、そんなもん、食いたけりゃいつでも……」
恐らくバレンタインにもこんなやり取りがあったのだろう。小十郎と佐助が顔を見合わせて笑った。
「まことでござるか?毎日でも貴殿の手作りお菓子が食べたいでござる!」
まるでプロポーズのようなセリフを吐いて嬉しそうに頬を紅潮させる幸村に、それまで黙って成り行きを見守っていた小十郎と佐助は慌てて止めに入った。
「馬鹿な事を言うんじゃねェ、真田。政宗様はそれでなくてもお忙しい。お前はもう少し遠慮というものを知れ」
「甘やかしちゃダメだよ、竜の旦那。本気にして、この人図々しく毎日あんたの家に通うから」
至極普通に常識的範囲内の事を言ったつもりだったのだが、何故か若者達から反感を買ってしまった。
「片倉殿はいつでも政宗殿のお菓子を食べられるからそう思われるのです!お一人だけズルいでござる!」
「……ズルい?」
この口上にはさすがに小十郎も驚いた。食べ物の恨みは怖いとはよく言ったものである。
「今更だぜ。幸村はアンタに放ったらかしにされて、夜中に良く俺んちに駆け込んで来てんだ。子守代はアンタに請求するからな」
「何それ、ホント?」
幸村の言い分は小十郎が上手く説得したが、政宗は爆弾を投げてきた。
「放ったらかしにしているつもりはないけど、護衛を付けずに夜中に行動するのは問題だね」
じろりと佐助が視線を投げると、幸村はまっすぐに見返してきた。
「ちゃんと才蔵に付いて来てもらっているし、政宗殿へも事前に連絡してから行っている」
「……何しに行ってるの?」
佐助は引きつった。子守代は冗談にしても、竜の言うとおり夜中に度々遊びに行っているのであれば問題だ。重要な用事でもあるのなら話は別だが。
「何って、勿論お菓子を食べに……」
当然のように言い放つ幸村に佐助は当然の如く怒り狂い、小十郎の雷も落ちた。
「才蔵は何も言わなかったの?いや、言わないな。そういう所は徹底してるから。あ~、もう!何考えてんの!俺様がいないとそんな事してんの?」
「政宗様も度が過ぎます!優しさと甘さは違うのですぞ!護衛が付いていたとしても、もし真田に何かあったらどう責任を取るおつもりか!」
保護者達は迷惑を掛けるような事をするなと言っているのだが、若者達は柳眉を逆立てた。
「だったら小十郎が俺の傍にいればいいだろ!暇してるのが幸村しかいねェから一緒にだべっているだけだ!」
「それなら佐助がお菓子を作って、俺の話し相手になればいいのだ!お菓子を作れて空いているのが政宗殿だから遊びに行っているだけだ!」
そうして淋しいと訴える若者達を、
「遊ぶにしても配慮が欠けております!それに、俺にも帰る家がございます!我が儘を仰いますな!」
「我が儘言わないの!俺様は片倉の旦那のご飯を作らなきゃいけないの!竜の旦那にお菓子を頼むにしても、夜中に行くなんて非常識でしょ!」
保護者達はキッパリと突き放した。端から見れば大型犬に吠える小型犬といったところか。落ち込んでしまった二人から距離を取り、小十郎は痛む頭に眉間の皺を深くして溜め息を吐き出した。
「すまねェ、猿飛。今まで問題が起きていないとは限らねェ。もし、何か発覚したなら遠慮なく言ってくれ」
申し訳なさそうな男を見上げ、佐助も引きつった笑みを浮かべた。
「こっちこそごめんね。竜の旦那も狙われる立場なんだから、もし何かあったら謝っても許されないよ」
淋しさが先に立つ政宗と幸村は物事の深刻性が分かっていないのだ。小十郎と佐助がそうして頭を痛めていると、そんな姿にさえ二人は拗ねて不貞腐れるのだった。

「……ホワイトデーはどっちかの家でパーティーでもする?きっとまた夜中に抜け出すよ」
仕方がないと佐助は提案した。
「……仕方ねェな」
男の了承にホッと安堵の息を吐き、ふと佐助が何かに気付いたように頭を上げた。
「リーガのクッキー……」
せっかくの楽しみが、と頭を下げる。予約を入れたとしても、受け取りはホワイトデー当日。当日は準備に追われて受け取りになど行けないだろう。そんな彼の橙色の髪を撫で、
「俺が取りに行ってやるから予約しておけ。長曾我部や毛利も誘いたいんだろ?やりたいようにやりな」
小十郎が穏やかに笑った。
「へへ……もう、カッコいいんだから」
「フッ、そうか」
「へへへへへ……うん」
「ククク」
幸せいっぱいな二人を前に、政宗と幸村は知らん顔をして並んでいるクッキーの箱を淋しそうに見つめていたのだった。

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